平野さん

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その日は、朝から悲しい出来事や不運があまりにも立て続けにおこって(全部私の不注意や配慮不足のせいだけど)「今年の私は世界から呪われている」という数カ月前からの疑惑が確信に変わるくらいの落ち込みっぷりだった。

何で私はこんなにも移動し続けなければいけないんだろう、とか、なんでバカみたいに大阪は暑いんだろう、とか、どうしようもないことや自分で選んだことさえも理不尽に思えてきて、ただひたすらアイスを食べ続けて一生を終えたい気分だった。

TVから流れるオリンピック中継を見ながら、フローリングの床にペッタリ寝そべって、このまま貝になりたい・・・と思ってたら、ピンポーンというチャイムで集荷を頼んでいたことを思い出した。

のそのそと起き上がって、ドアを開ける。汗びっしょりのくるくるパーマのお兄さんが、威勢の良い声で「集荷にまいりましたぁーっ!」と笑顔でドアの前にたっていた。

バカみたいなこの暑さに負けないくらい、暑苦しい人だな…と思った。でも、あまりに爽やかな笑顔で仁王立ちしているから、つられて私も「へへっ」と愛想笑いした。

パーマのお兄さんは、段ボールを持ち上げるたびに「いぃ~ヨイショッ!」「いぃ~ヨイショッ!!」と声を出す。

今までの家に集荷に来てくれた担当の人は、いつもやる気がなさそうで、おまけに私の部屋の中をしげしげ見渡すから、本当に嫌だった。

それに比べてその人は随分やる気がある。見ていると手際もとっても良くて、あっという間に全ての荷物にはきっちり伝票が貼られて、きれいに積み上げられて運び出せれた。

私が一連の動作を関心して見ていると、「じゃ~ありがとうございました!!」と言って、やっぱり笑顔で去っていった。

気持ちが良い人だな、と思った。ネームプレートには「平野」と書いてあった。平野さん─。心の中で、呟いてみる。こんな暑い中、たくさんの荷物を運んで、笑顔で、手際良い仕事をしているんだな。平野さん。

平野さんが私にちょっぴり元気をくれたみたいに、私は今まで自分の知らないところでこっそり誰かの琴線にふれられたことはあっただろうか。

人に何て思われても、少しばかり悲しい出来事や失敗が続いても、自分にだけは胸をはっていたいな、とふと思った。自分の中の決まりごとをちゃんと守って、淡々と生きる。それでたまに、人の幸せと自分の幸せが重なったら、それはとても幸運なことな気がする。

***

少しだけ気分が軽くなって部屋に戻ると、積み上げられていた荷物が全部なくなって、この部屋に入ったばかりのときのように、すっきりしていた。

なんとなくTVを消して、ラジオを流してみる。さぁ、掃除機をかけよう、と思った。少しはこの部屋をきれいにして、次の場所に向かいたい。

 

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梅野 なぎさ

梅野 なぎさ

’91生まれの25歳。だいたいの方がそうであるような気がしますが、旅と音楽と食べ物が好きです。【Mail】bonin.makani@gmail.com