太陽はね、海に沈むとき「ジュッ」っていうのよ

taiyou

「ねぇ、なぎさ、ジュっていうの聴こえた?」
夕日が海に落ちるのをを見ながら、母はよくそう言った。

「うん。聴こえた気がする!」
聴こえたのか聴こえなかったのかよくわからなかったけれど、やっぱり聴こえたような気がして、私はそう答える。

熱い太陽が冷たい海に落ちるのだから、きっとジュっていうはずだ。小学生ぐらいまで、そう信じていた。

いま私は、あのときと同じ小笠原で太陽を眺めている。でも、あのときとはずいぶん変わってしまった。幼かった私は25歳の女性になってしまったし、ママだった彼女は母になって50代になった。それに私はもう、太陽が海に落ちても音をたてないことを知っている。


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浜辺に観光客と思われる女性が2人歩いてきた。島民と観光客を見分けるには2つのポイントがある。1つは肌の色の違い、もう1つは履物の種類。肌が白ければたいてい観光客だし、ビーチサンダルをはいていたら確定だ。

「やばーい!超きれい!」とはしゃぐ声が聞こえる。うん。本当にきれいだ、と私も思う。

太陽が昇って、落ちるという日々の営みが、毎日違う景色を見せてくれる。とりわけ、最近の小笠原の夕焼けは特別きれいだ。毎日同じ時刻、同じ場所に夕日を見に行っても飽きることがない。


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これは最近知ったのだけれど、「太陽が海に沈むときにはジュって音がするよ」というのは、「青い珊瑚礁」という映画の中に出てくるセリフだった。年老の船長が、夕日を見つめる若い男女に言うセリフ。

きっと母は、この映画を見て私に言ったのだ。

母の感性が、私は好きだった。強くて芯がある女性なのに、たまに子どもみたいなことを言う。現実的な人かと思えば、ロマンチックなものを愛していた。

たぶん今も、そうなのだろうけれど。ずいぶん遠く離れてしまったな、と思う。

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太陽が落ちると雲はみるみる色を変える。観光客のカメラのシャッター音が続く。高級レストランからのぞく夜景も、美しい宝石たちも、自然の輝きにはかなわない。

自然が織りなす風景は生きていて、変わり続けるから。力強くて、儚いから。それに、いつかは、終わってしまうものだから。

ふと、母もいま、夕日を見ているんじゃないかと思った。わたしと同じ空を見て、夕日をうっとりながめているんじゃないかと思った。

どんなに離れてしまっても、空があるのは心強い。

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蚊にチクっと刺されてふと、我にかえる。あたりはだいぶ暗くなっていた。観光客の2人組も、シートをたたんで帰ろうとしている。

私も帰ろう、と思った。夕飯の準備をしなくちゃ。待っている人が、きっとお腹をすかせているから。

腰をもちあげて息を吸い込むと、ふわっとプルメリアの香りがした。

 

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梅野 なぎさ

梅野 なぎさ

’91生まれの25歳。だいたいの方がそうであるような気がしますが、旅と音楽と食べ物が好きです。【Mail】bonin.makani@gmail.com

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